絵本『さよならなんかしない』の刊行
自死で親を亡くした子どもたちに寄り添う絵本『さよならなんかしない』が、2025年11月12日に刊行されます。本作は、自死遺児支援プロジェクトの一環として、同プロジェクトに関わる佐藤まどかさん、森山花鈴さん、そして絵を担当した高橋和枝さんによって構成されています。
あらすじ
この絵本は、小学5年生のユウが主人公。彼は父親を亡くした後、周囲からの視線や自らの感情に悩みながら成長していく姿が描かれています。物語の冒頭では、ユウが学校の職員室で「お父さんが倒れた」と告げられる場面から始まります。彼は父の死に対する真実を知らされることなく、孤独な心情を抱え続けます。
ユウは、周りの大人や友人からの反応に敏感であり、「かわいそう」と思われるのではないかと心を痛めています。しかし、ある夜、母親のすすめで相談室を訪れたことで心の内にあった苦しみが少しずつ緩み、カウンセラーとの対話を通じて大切なメッセージに出会うことになります。彼は「泣くのを我慢していたら、胸がめちゃくちゃ痛くなる」と気づくのです。このセリフは、感情を抑え込むことの辛さをストレートに表現しており、読者に感情の重要性を伝えます。
グリーフケアの重要性
本作は単なる児童書ではなく、特に自死遺児に焦点を当てたグリーフケアの一環として位置づけられています。日本では、自死遺族は多く、彼らの中には多くの子どもたちも含まれています。実際、2008年の研究によれば、自死遺児は約9万人存在するとの推計があります。しかし、これまでそうした遺児を主人公にした絵本は存在せず、本作はその空白を埋めるものとして期待されています。
絵本は、ユウの気持ちの変化を通じて、自己責任ではないというメッセージを強調し、周囲の理解とサポートを促す役割を果たしています。特に、自死遺児の心の回復には、安心できる場所や相談できる人が必要であることを描き出しています。
大人へのメッセージ
また、本作は大人に向けたメッセージも含まれています。事実を伝えることの重要性や、子どもたちに寄り添いながら正しい知識を持つことの大切さが提起されています。特に教育現場では、自死遺児にどう接するかが重要な課題となっています。
著者たちの思い
著者の佐藤まどかさんは、自らも自死遺族であり、自身の経験から支援活動を行っています。森山花鈴さんは自殺対策の研究者として、この作品に解説を寄せています。それぞれのバックグラウンドが本作に色濃く反映されており、より深い理解を促す内容となっています。
結びに
『さよならなんかしない』は、子どもの権利を考える「子どもの権利月間」での刊行となることもあり、子どもたちの権利について考える契機ともなります。この絵本が、多くの読者に届き、心の支えとなることを願っています。子どもの権利やグリーフについて再考する機会として、ぜひ手に取ってみてください。