第174回芥川賞候補に文學界からの2つの作品
文学の祭典、芥川龍之介賞が近づく中で、文藝春秋が発行する「文學界」から2作品が候補作として名前が挙がりました。ノミネートされたのは、坂崎かおるさんの「へび」と、久栖博季さんの「貝殻航路」。どちらも独自の視点から描かれた物語が、読者の心を掴んで離しません。選考会は2025年1月14日に行われる予定です。
ノミネート作品紹介
「へび」
坂崎かおる氏の「へび」は、発達障害を持つ子供、夏秋とその家族の物語です。物語は「あなた」と呼ばれる語り手の視点から進行し、発達障害を抱える息子と、精神的に不安定な状態にある妻、那津との日々を描きます。親と子のかけがえのない日常が、時に厳しく、時に温かな視点で描かれ、読者は心揺さぶられます。
夏秋は少年野球を通じて親友との出会いを果たし、その成長を遂げていきます。そして、日々の中で感じる喜びや悩み、さらには彼が経験する逃避行など、さまざまな出来事が描かれていく…。この作品は、愛情や葛藤に満ちた親子の繋がりを、読者に深く考えさせるものです。
著者プロフィール:坂崎かおる
1984年、東京都生まれ。文学の世界での評判が高まり、受賞歴も豊富で、今作は芥川賞への2回目のノミネートとなります。彼女の作品は、一般に目にすることが少ない視点から物語を描くことが特徴で、多くの読者に愛されています。
「貝殻航路」
一方、久栖博季氏の「貝殻航路」は、北方領土を見つめる港町・釧路を舞台にした深い物語が展開されます。結婚を機に釧路に移り住んだ主人公は、アラスカから寄港する豪華客船の情報を受け取り、過去の痛みに直面します。アイヌの血を引く夫の不在、ロシア船に捕らえられた漁師だった父の記憶など、さまざまな要素が交差するこの物語は、歴史的背景が色濃く反映されており、読者を一瞬でその世界に引き込みます。
この物語は、戦後の歴史と民族の記憶を辿りながら、生活に埋め込まれた深い痛みや懐かしさを浮き彫りにします。かつての生活様式や文化を紐解く中で、失われた光を見つけようとする姿勢が心を打ちます。
著者プロフィール:久栖博季
1987年、北海道に生まれ、2021年には新潮新人賞を受賞しデビューを果たしました。今作が芥川賞候補作に選ばれるのは初めてですが、彼女の独自の視点と文章力は、すでに多くの読者に印象を残しています。
文學界の役割
文學界は、新たな才能を発掘する場としても機能しており、今回のノミネート作品はその一例です。坂崎さんと久栖さんは、いずれも豊かな作品世界を展開しており、芥川賞の選考においてどのような評価を受けるか非常に楽しみです。文学が持つ力を再認識しつつ、今後の動向から目が離せません。