昭和の思い出を描いた樋口明雄の新刊
2025年2月18日、樋口明雄による自伝的青春小説『ヤマケイ文庫 宇宙(ほし)に願いを』が刊行される。この作品は、著者が少年時代を過ごした山口県岩国市を舞台に、故郷に対する深い愛情が感じられる物語が収められている。書籍は株式会社山と溪谷社からのリリースであり、定価は1,100円(本体1,000円+税10%)だ。
故郷・岩国に向けたラブレター
樋口明雄は、少年時代の初恋、忘れられない夏の記憶を息を呑むような筆致で描いている。この作品には、ノスタルジーに満ちた3つの物語が展開される。「幻夏」「俺たちのロングウォーク」「宇宙に願いを」というタイトルが付けられ、それぞれが異なるテーマを持ちながらも共通して懐かしさや青春の葛藤を織り交ぜている。
物語の概要
幻夏
物語の中心は小説家のモリケンであり、彼は東京で忙しい日々を送っている。そんな中、小学校の同窓会で旧友と再会したことで、彼の心に新たな刺激が与えられる。しかし、楽しい時間は長くは続かず、幼なじみの死を知らされる。失意の中で彼は故郷・岩国市を7年ぶりに訪れることを決意する。そこで彼が体験するのは、過去と現在が交錯したノスタルジックでミステリアスな一連の出来事だ。
俺たちのロングウォーク
次に描かれるのは、中学1年生のモリケンとその仲間たちの冒険だ。岩国市から42キロ離れた徳山市を目指して歩く彼らは、思いもよらない試練や出会いに直面する。靴擦れや空腹、そして不良なバイク乗りとの遭遇など、少年たちの冒険は心の中で忘れかけていた感情を呼び覚ます重要な出来事に満ちている。
宇宙に願いを
最後の物語では、幼なじみの死によって喪失感を抱えるヒロキが、親友と共に彼らがかつて通った映画館の跡地を訪れる。映画にまつわる思い出や、そこで出会ったミステリアスな女性との淡い恋心が交錯し、ヒロキに忘れかけていた記憶が蘇る。ここから、彼がどのように過去を乗り越え、未来へ歩んでいくのかが描かれていく。
カバーイラストと解説
この作品のカバーイラストは、樋口明雄の故郷、岩国市出身の漆原友紀が手掛けており、彼女の独特なスタイルが作品の雰囲気を一層引き立てている。また、文芸評論家・西上心太による解説も掲載され、読者にさらなる深い理解を促すこととなる。
著者について
樋口明雄は1960年に岩国市で生まれ、現在は山梨県で生活を送っている。自然監視員としても活動する彼は、2008年に出版した『約束の地』で数々の賞を受賞し、以降多くの作品を執筆してきた。本書は自伝的青春小説として、彼のライフワークのひとつとも言える。
この『ヤマケイ文庫 宇宙(ほし)に願いを』は、樋口明雄の思い出に寄り添い、強いメッセージ性を持つ作品であり、多くの人々の心に響くことだろう。故郷への愛情がどのように形作られていくのかを感じながら、作品を手に取ってみてはいかがだろうか。