消えゆく文字たちの物語を探る一冊『絶滅しそうな世界の文字』

2025年10月28日、株式会社河出書房新社より、著者ティム・ブルックス、訳者黒輪篤嗣による書籍『絶滅しそうな世界の文字』が発売される。これは、消滅の危機にある世界の文字体系83種類の物語とその背景を掘り下げたユニークな内容となっている。本書では、歴史的な文脈や文化的な重要性を持つ文字の旅路と、その文字を生み出した人々の思いを紹介する。

文字が消えてしまうことは、単なる情報の喪失に留まらず、民族のアイデンティティや文化の消失を意味する。著者は、世界中の文字の85〜90％がそういった危機に直面している現状を警告している。この書籍では、古代の中東で使用される聖なる文字から、現代において新たに考案されたアフリカの文字まで、87種類にわたる文字の背後にある人間の物語を紐解く。この本を手に取ることで、私たちはそれぞれの文字が持つ込められた歴史や文化の深さに直面することになる。

文字と文化の関係

古代の地で生まれてきた文字たちは、時代を経て変遷を遂げてきた。たとえば、エジプトのコプト文字や南インドの悉曇文字は、それぞれ独特の経緯をたどっている。コプト文字は、かつてエジプトの公用文字であったが、イスラム教の拡大により使用者が激減し、現在では僅か300人に満たない。悉曇文字もまた、南インドで盛んに使用されながら日本に伝来し、今でも特定の宗教行事で使用されている。こうした事例を通じて、文字が文化や宗教といかに深く結びついているのかを考えることができる。

消滅の危機に瀕した文字たち

本書には、特に消滅の危機にある文字たちが登場する。たとえば、駱駝に押される焼き印を元にしたスーダンの文字や、民族の独立の象徴として生まれた文字、大国の抑圧により危機にさらされる文字など、それぞれの背景には一人一人の思いや戦いがあります。これらの物語はまさに人間のドラマであり、文化を守ろうと奮闘した人々の情熱が詰まっている。

美しいビジュアルと貴重な情報

『絶滅しそうな世界の文字』では、文字の成立過程や文化的背景も詳細に解説されており、視覚的にも楽しめるビジュアルが豊富だ。文字のデザインはただの表記法ではなく、文化の美しさを物語るアートでもある。読者は、ただ文字を眺めるだけでなく、その背後にある深い意味も知ることができる。特に、シャーマンのために使用される文字や、秘密の会話に使われていた文字など、興味深い事例が紹介されている。

言葉の消滅と私たち

消滅の危機にある文字は、私たちが無視しているような歴史的な教訓を投げかけている。それらの文字は、単なるコミュニケーション手段ではなく、文化の核、アイデンティティの象徴でもある。文字が失われることは、その文化や知識、アイデンティティが失われるということであり、これまでの歴史が葬られることに他ならない。私たちは、それをどう受け止めるべきなのか。この書籍を通じて、自らの認識を再考するきっかけになることだろう。

本書『絶滅しそうな世界の文字』は、文字に秘められた深い物語を探求する冒険であり、読者に新たな視点を提供してくれる。文化と文字のつながりを感じ取りながら、彼らが残した美しいメッセージを共に理解する旅に出てみよう。