ドラマと文学が交差する小泉八雲の愛妻の物語
2024年12月、小泉八雲の妻である小泉セツの回想記『思ひ出の記』が、新たに松江市の出版社から再編集された形で刊行されました。この新装版では、旧仮名づかいのテキストを現代表記に改めるとともに、注釈も新たに設けられ、より多くの年代の読者に親しむことが可能となっています。読者にとって理解しやすく、より魅力的な作品として生まれ変わることで、ドラマや文学への関心を高めるきっかけとなるでしょう。
セツが描いた八雲の真の姿
本書の中心となるのは、小泉八雲とセツの13年8ヶ月にわたる結婚生活を、セツの視点から描いた内容です。文豪として知られるラフカディオ・ハーンの人間性や家庭の光景が、彼の最も近くにいたセツの目を通して読み取ることができます。この作品は、八雲の文学の根源に触れるだけでなく、彼の人間としての温かみや情緒をも感じさせてくれます。
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』との関わり
また、注目すべきは、2025年より放送が開始されるNHKの連続テレビ小説『ばけばけ』の制作陣が本書を「バイブル」として利用しているという点です。制作プロデューサーの橋爪國臣氏らは、「役者に『思い出の記』を読んでもらい、作品が求める空気感を伝えるために活用しています」と語っています。このように、セツの物語が映像作品に活かされることで、より多くの人々が彼女の存在に触れる機会が増えるでしょう。
主題歌と文学の融合
さらに、主題歌を担当するハンバートハンバートの佐藤良成氏も、「この作品を元に曲を作った」と自身の公式サイトで述べており、文学と音楽が交わる面白い事例となっています。彼は、「ただただ繰り返し読み、自分がセツになったつもりで一気に作った」と語ることで、音楽作品がいかに文学からインスパイアを受けているかを示しました。
小泉凡氏の解説
本書の解説は、小泉八雲記念館館長の小泉凡氏が執筆しています。凡氏によれば、『思ひ出の記』はセツの人生のクライマックスとも言える時期に、彼女が八雲の最も身近な存在として体験した出来事を織り交ぜたものであり、読者はここでさらにセツの人間性に迫ることができるでしょう。
新装版の特徴
新装版『思ひ出の記』は、本書の表題作に加え、セツの手記が2編収録されています。「オヂイ様のはなし」と「幼少の頃の思い出」という作品が初めて全文掲載され、これまで未発表だった内容が明らかになりました。「オヂイ様のはなし」では、セツの祖父についてのエピソードが綴られ、彼女の先祖への誇りが表現されています。一方、「幼少の頃の思い出」では、セツが自身の身の上や人生の転機を語り、その中でラフカディオ・ハーンと出会った運命に触れています。
これにより、セツという存在が文化や歴史の中でどれほど重要であったかが、より深く理解できるでしょう。
小泉セツとは
小泉セツ(本名・節子)は、1868年に松江藩家臣の家に生まれ、八雲との出会いを経てその文学に多大な影響を与えた女性です。彼女は1932年に亡くなるまで、八雲の文学活動に欠かせない存在として、深い関わりを持ち続けました。
新装版の刊行を通じて、多くの人が小泉セツの魅力を再発見し、彼女の人生を知るきっかけとなることを期待しています。