『子供の科学完全読本』で振り返る昭和の科学技術
2025年8月8日出版予定の『子供の科学完全読本 高度経済成長期編』は、著者小飼弾氏が昭和100年という節目に、過去の科学と技術がどのように現在に影響を与えているのかを探る一冊です。昨年の発行分が好評を博したことを受け、今回も膨大なバックナンバーを元にした考察が展開されています。
高度経済成長期の科学と技術
本書は、朝鮮戦争から始まり、冷戦や宇宙開発競争といった時代背景を元に、高度経済成長期の科学技術の進展に焦点を当てています。特に注目すべきは、かつてのソ連が成功裏に打ち上げた人工衛星についての記述です。たった一つの衛星がもたらした衝撃と、それが私たちの日常にどのように影響を及ぼしたのかに思いを馳せると、当時の熱気を感じます。
また、アポロ計画を追いかけた記事もあり、宇宙を目指す人類の夢がどのように具体化していったのかを詳述。技術の進歩がもたらした夢と実現に向けた挑戦がどのようだったのかが浮き彫りにされています。
期待と現実のギャップ
高度経済成長期の象徴である東海道新幹線は、多くの期待を背負って開通しました。読者の期待を寄せた「次はリニアだ!」という盛り上がりに、当時のワクワク感が蘇ります。しかし、技術の進歩は必ずしも未来予測通りには進まないことも本書が示しています。たとえば、技術革新がターニングポイントとなった電気自動車や自動運転に対する期待は、今の社会でも様々な課題を抱えています。
豊かさの裏に潜む問題
本書では、経済成長の裏側に潜む問題についてもしっかりと向き合っています。公害や交通渋滞など、当時社会に影を落としていた問題点を振り返り、科学技術が解決した面についての考察が行われます。「快晴の日に富士山も見える現代」の姿を持つ著者が、当時の読者に信じてもらえるかどうかを問いかける場面は印象的です。
対談企画でつながる人々の記憶
後半では、工学博士の村井純氏やサイボウズ社長の青野慶久氏との対談企画が見逃せません。これらの対談を通じて、雑誌が果たした役割や、科学と社会がどのように関わり合ってきたのかを掘り下げていきます。特にネット黎明期を共に過ごした二人が、いかに『子供の科学』の影響を受けたかを振り返る場面は、読者にとっても興味深いものとなるでしょう。
昭和の未来予測を振り返る
「2003年未来の生活」を特集した電子書籍も付録として用意されており、当時の予測と現実の乖離を楽しむことができます。このように、『子供の科学完全読本』は単なる知識の集積ではなく、時代を背景にした記憶の再構築を促す重要な作品として位置づけられています。読者は、科学技術の発展を通じてその時代の人々が抱いていた夢や希望を再認識し、未来に対する新たな視点を得ることができるでしょう。
本書を通じて、昭和の時代に想いを馳せつつ、過去からの教訓を新たな金言に変えていく。そんな体験を提供してくれるこの一冊は、現代の科学技術史を考える上で外せない貴重なリソースとなるでしょう。