布施明の日本武道館公演に見るエンターテイメントの真髄
2025年5月7日、水曜日。布施明が歌手デビューから60年を経て、オープニングを飾ったのは日本武道館。彼にとって初の試みとなるこの大舞台では、圧巻の歌声と全身全霊のパフォーマンスで8000人を超える観客を魅了しました。
コンサートの始まりを告げる鐘の音と力強い太鼓の響きが、場内の緊張感を一気に高めます。布施は黒のフォーマルな装いで、スポットライトに照らされながら舞台中央に立ちます。客席は静まり、彼がノーマイクで披露したア・カペラの「MY WAY」の一節は、息遣いまで響きある壮麗な瞬間でした。
次に続いたのは、ホーンセクションの華やかな演出が特徴的な「君は薔薇より美しい」。グルーヴィーなリズムの中で軽快に踊る布施の姿に、オーディエンスも心が躍りだします。その後は新曲「旅のいのり」で、布施が歌の力を力強く訴え、新しい楽曲が披露されるたびに観客の期待感が高まります。特に「武蔵野 On My Mind」では、バックのアコースティックギターが郷愁を誘い、観客を彼の故郷へと想いを馳せさせました。
「愛情物語を観ましたか」でのバイオリンの音色は、観客の涙を誘う場面も。ショパンのノクターン、第2番の間奏が流れる中、懐かしむように歌われると、まるで時間が止まったかのように多くの人が陶酔の表情に包まれていました。この曲はまさに、布施の歌声が心の奥まで染み渡る瞬間そのものでした。
さらに、60周年の集大成ともいえる「Voyage<旅路>」では、彼のこれまでの軌跡と観客が共に歩んできた道のりの融合が感じられ、感動的でした。名曲のカバーも披露され、観客は「Because of You」や「帰り来ぬ青春」にも捉えられました。
特に印象的だったのは、特別なメドレーコーナーでした。『仮面ライダー響鬼』の主題歌「少年よ」や、「シクラメンのかほり」、さらには「愛は不死鳥」など、幾つものヒット曲が次から次へと繰り出され、客席は歓喜のあまりどよめくばかり。
その後は、布施がコミカルな要素を取り入れたコーナーへ。老いぼれたタップダンサーを演じた「Mr. Bojangles」では、笑いを誘いながら、新たな視点を観客に届けました。
クライマックスが近づくにつれ、彼は「道はまだまだ先に伸びております」と力強く宣言。ラストを飾る「1万回のありがとう」や「次の一歩へ」では、深い感謝の意が広がり、目に見えない絆を感じさせる瞬間が続きました。最後に「MY WAY」を再度歌い上げ、会場は涙と歓喜に包まれ、布施は温かい笑顔でスピーチを終えました。
感動的なフィナーレを迎えた布施明のステージは、観客の心に深く刻まれました。その圧倒的なパフォーマンスは、決して立ち止まることなく歩み続ける彼自身の姿そのものでした。そして、観客に幸せを届けるという彼の想いが歌に込められ、その純度の高さが会場を包み込んでいったのです。これからも布施明の巡礼は続いていくことでしょう。