英国ロイヤル・オペラ『トゥーランドット』シネマ版の魅力
6月20日(金)から映画館で公開されるロイヤル・オペラの『トゥーランドット』は、アンドレイ・セルバン氏が演出を手掛ける名プロダクションです。1984年に初演され、長年にわたり愛され続けているこのオペラは、イタリアの作曲家プッチーニが描いた、愛と犠牲の物語です。シネマ版では、劇場とは異なる視点からこの作品の魅力を再発見することができます。
セルバン演出の美しさ
アンドレイ・セルバン演出は、その美術セットにおいて古代中国のエッセンスを存分に感じさせます。舞台を囲む木製のギャラリーによって、観客を圧倒する視覚的な体験が作り出されています。また、振付家ケイト・フラットによる独特な振付や、照明とスモークの演出も加わり、音響的にも演劇的にも理想的な舞台が構築されています。
オペラ・キュレーターの井内美香氏は、「《トゥーランドット》の世界観を余すところなく描き出す点が魅力です」と語っています。シネマ版では、初演時の振付家であるケイト・フラットの貴重なインタビュー映像も楽しむことができ、これが特典として提供されるのも見逃せないポイントです。
実力派キャストの競演
この作品には、実力派のキャストたちが揃い踏みです。トゥーランドット姫役にはソンドラ・ラドヴァノフスキーが出演し、彼女の歌唱力は圧倒的です。第2幕のアリアから第3幕にかけて、苦悩と愛情を見事に表現し、観客を魅了します。
さらに、カラフ役のソクジョン・ベクは、「誰も寝てはならぬ」を歌うために生まれたかのような声で、ラドヴァノフスキーに負けない存在感を示しています。リュー役のジェマ・サマーフィールドも、音楽性豊かな歌唱で観客を惹きつけます。
特に、セルバン演出ではピン、パン、ポンの3人が重要な役割を果たします。井内氏によると、「音楽的にも重要なパートを受け持つ彼らは、ダンスを通じて躍動感を出しつつ、故郷を懐かしむ場面では人間味あふれる一面も見せています」と高く評価されています。
プッチーニの魅力を味わう
井内氏は『トゥーランドット』の本質的な魅力について、プッチーニが生み出したリューの存在を強調しています。彼女の死後の展開に関しては意見が分かれますが、セルバン演出を見ていると、リューの存在こそがドラマの核心を貫いていることを納得させられると述べています。「現代の多くの葛藤を抱える人々にこそ、プッチーニの音楽をこの形で体験してほしい」と力強いメッセージを送っています。
映画館での『トゥーランドット』シネマ版は、これまでとは異なる視点で作品の深層を体感できる絶好の機会です。この機会をお見逃しなく、ぜひ足を運んで楽しんでください。