奈良国立博物館が開館130周年を迎えるにあたり、特別な図録『三千世界 奈良国立博物館 名宝百三十撰』が登場します。本書は、約2000件の所蔵品から厳選された130件の仏教美術作品を紹介する美術写真集であり、特別展「超国宝―祈りのかがやき―」に合わせて砂という形で展開されます。一般の書店には2025年4月25日に並ぶ予定です。
この写真集の特徴は、全作品が奈良の名物といえる六田知弘の手によって新たに撮り下ろされた点です。彼は美術作品の撮影を専門にしており、独自の視点で名宝の美しさを抽出しました。作品は、濃い黒の背景に浮かび上がり、まるで宇宙空間にいるような感覚を与えます。視覚的な影響を重視したこの作品は、肉眼では捉えられない繊細な部分を強調し、観る人に新たな体験を提供します。
書名『三千世界』は、仏典に見られる宇宙の広がりを象徴する言葉で、奈良博の収蔵品がいかに壮大な歴史の中で形成されてきたかを示しています。本書には、絵画や彫刻だけではなく、工芸や考古学にいたるまで幅広い分野からの文化財が収められており、博物館の価値を具現化する作品としての意義があります。
デザインには上田英司氏が関わっており、作品の配置は歴史的な文脈を踏まえつつ、過去の枠を越えた新しい視点を提供しています。これにより、時代の変遷が垣間見えるだけでなく、異なる時代同士の対話を生む構成がなされています。このような大胆なレイアウトは、従来の美術書にはないダイナミズムを生み出しています。
充実したテキストによる解説も見逃せません。東京大学の青柳正規教授や、奈良国立博物館の館長である井上洋一氏がそれぞれ執筆した序文や解説が収められており、読者が作品に込められた思いをより深く理解する助けとなります。各作品に付された研究員による解説も詳細で、本書が奈良博のエッセンスを余すところなく凝縮していることを実感させます。
この美術写真集は、日英の完全バイリンガル形式で発行されるため、日本国内外問わず多くの人に奈良国立博物館の魅力を広める役割を果たすことでしょう。本書を通じて、多くの方々に奈良の美術文化が伝わり、訪れるきっかけとなることを願っています。
特別展に合わせた刊行記念イベントも計画されており、写真展やトークショーなど多彩なプログラムが用意されています。興味がある方は、ぜひこの機会に足を運んで、その魅力を直接体験してみてはいかがでしょうか。奈良国立博物館は、忘れられない祈りのかたちを未来へと受け継いでいく場所であり続けるのです。