繰り広げられる迷宮の物語
鬼才、金子薫の待望の最新作『愛の獣は光の海で溺れ死ぬ』が、2025年4月17日に発表されます。この作品は、「出口なき迷宮的デスゲーム」をテーマにした小説で、まさに現代の新たな黙示録とも言える一冊です。彼の作品が特に注目される理由は、その硬質な文体とシニカルな視点、そして甘美なモチーフによるものです。彼は昔から「ここは一体どこなのか、自分はどこに/何に向かっているのか」という迷宮を描き続けてきました。
物語の舞台
作品は、増殖する高層ビル群の中に存在するスラム街〈奇天座〉を背景としています。ここでは、究極の幻覚剤〈ロロクリ〉が蔓延し、住人たちは次々と獣や虫に変身していきます。ロロクリの作用により、人間性を捨て去り、快楽の中で自らの存在を消し去ろうとする彼らの姿が描かれています。その中で、一人の少年・西尾は自らの人間性を守るため、必死に幻覚に抗おうと奮闘します。
連作小説としての魅力
『愛の獣は光の海で溺れ死ぬ』は、連作小説形式を取っています。物語は「成るや成らざるや奇天の蜂」や「天使」「蜂」「幻覚剤」「変身」など、さまざまなモチーフでつながっており、それぞれの存在が共鳴し合い、全体として一つの体系を形成しています。各話に登場するキャラクターが抱える苦悩や欲望は、同時に彼らの現実と虚構をも支配する存在として、際立っています。
高評な作品群
中でも収録作品「スカピーノと自然の摂理」は、フランスで早くも翻訳が掲載されるなど、海外からも注目を集めています。金子の作品は実際、他人を食らう側、食われる側、そしてそれを許容する社会自体が描かれ、無限ループの出口を探し求める現代人の姿を巧妙に表現しています。この物語は、緻密な文体と鋭い風刺をもって、我々が直面する現実を描き出します。
批評も高評価
小川公代教授からの書評では、本書が持つ多面的な視点が強調され、道化の視点とそれを俯瞰する視点が共鳴し合うことで、通常の規範が揺さぶられていることが指摘されています。これは、創造的かつ批評的な視点が生まれる背景とも関連しています。
金子薫のプロフィール
金子薫(かねこ・かおる)は、1990年に神奈川県で生まれました。2014年に debut した作品『アルタッドに捧ぐ』での文藝賞受賞を皮切りに、第11回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」や野間文芸新人賞を受賞するなど、高い評価を受けています。
本書の仕様
今回の作品は、46判の上製で184ページ、税込み2200円(本体2000円)という仕様です。装丁は佐藤亜沙美、装画をPASSが担当しています。
金子薫の最新作『愛の獣は光の海で溺れ死ぬ』は、デスゲームというテーマを通して、現代社会の深淵を描く作品です。彼の独創的な視点と作品に裏打ちされた魅力を、ぜひお楽しみください。