高校野球に新しい視点を提案する一冊
東京・千代田区に本社を構える株式会社東洋館出版社が、2025年8月26日に新刊『成長至上主義のチームデザイン──成長こそが慶應の野球』を発行する。この書籍は、著者であり慶應義塾高校野球部監督の森林貴彦氏が提唱する新たな高校野球のあり方、すなわち「成長至上主義」に焦点を当てている。
勝利至上主義からの脱却
高校野球界では、長年にわたり「勝つこと」が最優先にされてきたが、あまりにも勝利を追求するあまり、選手たちの成長が見過ごされがちだった。本書では「勝利至上主義」に対して疑問を投げかけ、人間的成長を目指す新たな枠組みとして「成長至上主義」が提案されている。選手にとって、高校野球は競技レベルだけでなく、人生の礎を築く場所であるべきだという信念が込められている。
著者は、固定化されたトレーニングに対する疑問を示した前著『Thinking Baseball』から一歩踏み込み、勝敗にとらわれず、選手がそれぞれの個性に応じて成長できる環境を整える重要性を訴えている。単なる勝利の指標ではなく、その先にある選手たちの人生という視点が必要だ。
成長志向の部活動の設計
「成長至上主義」は、勝利を否定するものではない。むしろ、勝利と成長を両立させることを目指している。チームとしての勝利は重要であるが、その過程で選手たちの個々の成長を無視してはならない。本書では、選手たちの成長を促進するための練習の設計、役割分担、そして怪我の予防法に至るまでを包括的に見直し、成長を中心に再構築する方法を提案している。
専門家の知見を活かしたチームデザイン
著者は、慶應義塾高校野球部を支える多くの専門家の意見を収録し、成長志向の分業制チームの全貌を解明。また、メンタルコーチである吉岡眞司氏が選手の心の成長をサポートし、スポーツサイエンティストの稲見崇孝氏が科学に基づいたトレーニングを通じて肉体的成長を促進するなど、多角的なアプローチを土台にしている。
硬直した部活動文化の変革
勝利を絶対視する文化がもたらす問題点も浮き彫りにされている。その結果、選手たちの人間的成長の可能性が損われる危険性がある。高校野球には、勝利だけを追求するのではなく、選手の未来に目を向ける必要がある。成長至上主義は、選手たちが自分自身と向き合い、挫折から立ち直る力を育むための道筋を示している。
出版予定と著者の経歴
本書の出版に先立ち、監督の森林氏は慶應義塾大学を卒業後、指導者としての道を歩んできた。2015年から同校の監督を務め、多くの実績を上げており、高校野球界にも彼の影響力は広がっている。卒業後の人生を見据えた教育は、選手たちにとって非常に重要である。
この書籍は、高校野球のあり方を根本から見直す重要な提案と言えるだろう。選手たちがただ勝つことを目的とするのではなく、一人ひとりが成長し続けられる環境を整えることで、未来に向かって羽ばたく力を養うことが期待されている。