心の再生プロセスを探る
ひきこもりは現代社会において深刻な問題です。しかし、その根本にはなぜ親が理解できないのかという疑問が存在します。著者の桝田智彦氏は、自身もひきこもりを経験しているため、親の気持ちに非常に敏感です。彼の著書『親から始まる ひきこもり回復』では、心の回復に向けた5つのステップを提案しています。
無意識下の心理的ダメージ
ひきこもりの子供たちは、家庭内での無言のプレッシャーを受けています。何が原因でひきこもりになってしまったのか、親にも分からないことが多いはずです。しかし、桝田氏は無意識下に蓄積されたトラウマが大きな要因だと指摘しています。また、心のエネルギーが枯渇している場合も多く、親の無理解が乾いた心に氷水を注ぐことになるのです。よって、まずは「安心してひきこませる」環境を作ることが重要だといいます。
親子の信頼感の重要性
親は「いい子」を育てたと自負していることが多いですが、それが時に悪影響を与えることがあります。子供は親の期待に応えようと自分を抑え、その結果、無意識にひきこもりになることもしばしばあります。桝田氏は、親はただ理解して受け入れることから始めるべきだと訴えます。これは、親子の信頼関係を築く上で非常に重要です。
5つの回復プロセス
桝田氏の提唱する五つのプロセスは、以下のように進みます。
1. 希望
2. 意思
3. 目的
4. 有能性
5. アイデンティティ
これらのステップは、希望がなければ出発しません。親は、子供がこれらのプロセスを経て回復していくことを見守る必要があります。それぞれのステップには、たくさんの課題や障害が存在し、親としてどう接していくかが問われます。
理解しがたいフレーズの真意
本書には「親の正論は百害あって一利なし」や「無条件の肯定」など、一見読むものを戸惑わせるフレーズも登場します。しかし、桝田氏が指摘するのは、家族の中でのコミュニケーションの重要性です。言葉の裏には子供自身が持つ複雑な感情が隠れているため、その表面だけを捉えて判断するのは早計です。通読するうちに、自らの理解が深まることでしょう。
未来への希望
本書では、ヒーリングを助ける方法が具体的に示されています。親に求められるのは、子供の成長を見守り、支えることです。特に、愛情が伝わった実感は、子供の心のなかに深く刻まれていきます。この愛情が未来を築くための力になるのです。
本書は2019年に発刊されたものを改訂し、48ページの新稿を加えた増補新装版です。これからの時代、心のサポートがますます重要になってくることでしょう。心の問題に向き合う親たちにこそ、手に取ってほしい一冊です。
著者の経歴について
桝田智彦氏は、1974年生まれで心理士としてのキャリアを持つ一方、音楽にも熱心に取り組んできました。大きな喪失を経験し、その後、心理学の道へ進んだ彼の言葉には実体験に基づくリアリティがあります。現在、臨床心理士として、ひきこもりや不登校に面している多くの家庭を支援しています。彼の知識と経験が凝縮された本書は、いかにして家族が共に歩むべきかを見つめ直すきっかけになるでしょう。