北欧からやってきたAIの新たな理解
東京大学の松尾豊教授の推薦を受けて、AI(人工知能)をテーマにしたノルウェーのノンフィクション『考える機械たち』が日本に上陸しました。この本は、AIの歴史、現状、そして未来についてを理解しやすく語る一冊であり、特にAIについて詳しくない読者にも手に取りやすい内容となっています。
本書の構成
『考える機械たち』は、3部構成になっており、それぞれがAIの異なる側面に焦点を当てています。初めの部分では、AIの歴史を追い、次に現代におけるAIの最前線を探り、最後にAIの倫理や未来について考察します。
第1部:AIの歴史
この部分では、18世紀の「チェスをするトルコ人の人形」から始まり、アラン・チューリング、AIの最初の成果であるDeepBlue、そして近年の技術であるChatGPTに至るまでの重要な出来事が紹介されます。AIの進化の旅を振り返る中で、著者は読者にとって身近な逸話を多数紹介し、例えば「お掃除ロボットが最適解を求める過程で自身の存在意義を再考する」といったユーモラスな視点も提供しています。
第2部:AIの現状
次に、AIの現状に関する興味深い逸話が描かれます。特にオスロ中央駅近くのピザチェーンのデジタル看板は、料理の写真を映し出すだけではなく、客の表情を観察しデータを集めていたという事実が紹介されます。また、テスラ車の運転に関連する技術も取り上げられ、データ収集の目的やその使用に関する問題が提起されます。著者は、AIが持つ巨大な可能性と同時に伴ってくるリスクについても警鐘を鳴らします。
第3部:AIの倫理と未来
最終部では、AI技術の倫理についての考察がなされます。この部分では、技術の規制が必要だとしつつも、その過程が決して単純ではないことを指摘します。機械に意思決定を委ねることによる人間の能力の低下や、ユーザーとの同意形成に関する難しさが語られ、EUで進められるAIに関する法律も参照しつつ、今後の方向性を考えさせられる内容となっています。
著者プロフィール
本書の著者であるインガ・ストルムケは、ノルウェー科学技術大学の准教授で、もともと素粒子物理学を専門としていましたが、AIの利用を通じて新たな学問領域へとシフトしました。彼女は一般向けにもポッドキャストでAIの解説を行っており、幅広い層に向けた情報発信に力を注いでいます。
翻訳者の羽根由氏は、スウェーデン語とノルウェー語を駆使する翻訳者で、様々な書籍を手掛けています。また、監修者である小林聡氏は東京大学出身で、計算機科学の専門家でもあります。
書籍情報
- - タイトル:考える機械たち
- - 著者:インガ・ストルムケ
- - 翻訳:羽根 由
- - 監修:小林 聡
- - 仕様:四六判、384ページ
- - 定価:2,640円(税込)
- - 発売日:2025年6月11日(水)
この一冊を通じて、AI技術が我々の未来にどのような影響を及ぼすかを考えるきっかけになれば幸いです。