仮想現実がもたらす若者の心理的変化と新たな支援の形
近年、心の健康が注目されていますが、特に若者にとって悩みを打ち明けることは簡単ではありません。そんな中、横浜市立大学の研究チームが仮想現実(VR)空間における匿名対話の可能性に光を当てており、その成果が注目されています。
研究の背景
この研究は、NHKのドキュメンタリー番組「プロジェクトエイリアン」の一環として実施されました。参加したのは、精神疾患を抱える10代の若者3名。VR空間でエイリアンのアバターを介して対話を行うという新しい形のコミュニケーションが、彼らの心理状態にどのように影響を与えるのかを探るものでした。
横浜市立大学附属病院の藤田純一医師とそのチームは、VRを利用してこの特異なことを試みました。見た目や先入観から解放されることで、若者たちが心の苦悩を語りやすくなるのではないかという狙いです。この研究の結果は、『JMIR Formative Research』という国際的なデジタルヘルス専門誌に2025年5月に掲載されることが決まりました。
研究の方法
研究では、以下の方法でデータが収集されました。
1.
症例の経過観察:全参加者の心理状態について、孤独感、レジリエンス、抑うつ症状に関する自由記述による要約を行いました。
2.
自己記入式質問紙:特定の心理的指標について、参加者の回答を基に数値化しました。
3.
テキスト分析:VR体験中の対話内容を分析し、感情の変化を可視化しました。
これにより、心理的な改善がどのように生じるかを探る枠組みが整いました。
研究結果
分析の結果、以下のことが明らかになりました:
- - レジリエンスの向上:全参加者のレジリエンススコアが改善。
- - 抑うつ症状の軽減:参加者全員で抑うつスコアが減少し、特に1名では大きな改善が見られました。
- - 社会的つながりの意識向上:孤独感が不変またはわずかに上昇したものの、他者とのつながりを求める前向きな意識が見られました。
- - 感情表現の変化:都市部から宇宙船、そして月面という異なる仮想環境を通じて、参加者の感情が豊かに変化し、自己開示が進んでいく様子が確認されました。
参加者の声
参加者からは、「同じような苦しみを持つ人がいることを知って、自分だけじゃないと気づけた」との意見や、「自分をもう少し信じてみようと思う」といった前向きな発言がありました。これらは、他者とのつながりや自己理解を深めるきっかけとなっている様子が伺えます。
今後の展望
藤田医師は、この研究が若者にとっての新たな支援手段となる可能性を示しているとし、VR技術の活用による治療的効果についてのさらなる研究を目指しています。将来的には、より多くの参加者を対象にした検証実験や、脳波や生理的指標を取り入れたデータ分析を行うことで、共感や絆の形成の過程を具体的に捉えることができることを期待しています。
VRを利用した匿名対話は、心の問題に直面している若者にとって、新しい道を切り開くかもしれません。彼らが気軽に参加できる環境を整えることが、これからの課題となっていくでしょう。