旅する駅の物語『駅と旅』の魅力
この度、創元文芸文庫から出版された新作アンソロジー『駅と旅』。この一冊は、まるでポケットに忍ばせてもって行きたくなる、そんな魅力を秘めています。旅と駅をテーマにしたこの本は、実在する駅を舞台に、六名の作家がそれぞれの視点で描く新作短編を収めています。
各作家の特徴を活かした物語が展開され、私たちの日常で常に行き交う駅という場所に、読者を非日常に誘うドラマがあります。駅は、旅の始まりを告げる場所であり、また帰還の場所でもあります。この本は、そんな駅の持つ不思議な魅力を存分に味わわせてくれる一冊です。
収録作品の見どころ
1. ### 砂村かいり「きみは湖」
毎年同じ日に購入される切符。それは失った恋人が収集していたもので、主人公は「湖に浮かぶ駅」での再会を果たすまでの過程を描きます。切符という小道具から紡がれる思い出と出会いが、心に響きます。
2. ### 朝倉宏景「そこに、私はいなかった。」
高校生活のなかで経験した無念な瞬間。その夏、高校生の私が、彼の野球の試合に足を運べず再び西へ向かう、運命の再訪を描きます。
3. ### 君嶋彼方「雪花の下」
突然の事態で実家へ帰った夫と、その兄を追いかける妻たちの物語。北海道を舞台にした夫婦のドラマは、愛と信頼を再確認させてくれる瞬間です。
4. ### 松崎有理「東京駅、残すべし」
秋の晴れた日に現れた不思議な「もののけ」に対抗する駅の姿が描かれ、旅する駅のキュートさに心が和みます。
5. ### 額賀澪「明洞発3時20分、僕は君に撃たれる」
ソウルの街で再会した男女と、その周囲を追う記者の物語。これは果たして逃避行か、彼らの思いを法外に描きます。
6. ### 鳥山まこと「辿る街の青い模様」
青色のタイルに導かれた先で、家族との思い出を振り返り、主人公が経験する愛の深さを描写しています。
駅という不思議な存在
日常を過ごす中でも、駅という場所には特別な意味があります。何度も通る駅は、あなたの記憶の中でさまざまな物語を刻んでいます。このアンソロジーを手に取ることで、あなた自身の心の風景を旅することができるかもしれません。
これからの新しい季節、期待や不安を抱えた読者に、心の一隅をくすぐるひとときを与えてくれること間違いなしです。
新たな物語に触れるための切符を握りしめ、あなたの旅が始まるかもしれません。
書誌情報
- - 書名: 駅と旅
- - 作家: 砂村かいり、朝倉宏景、君嶋彼方、松崎有理、額賀澪、鳥山まこと
- - ページ数: 324ページ
- - ISBN: 978-4-488-80315-5
- - 価格: 858円(税込)
- - 装画: 早川世詩男
このアンソロジーを手にとって、あなたも旅の途中の物語を楽しんでみてはいかがでしょうか。