四世代七人家族と九九歳の祖母との日常
最近、矢嶋晶によるエッセイ『奇跡の九九歳』が新たに出版された。この作品は、99歳を迎えた祖母とその家族との何気ない日常を通じて、深い人間味に触れることができる内容になっている。著者自身が大家族の一員として体験した、温かくもユーモラスなエピソードがふんだんに盛り込まれている。
大正最後の年に生まれた祖母
令和六年、日本の長野県で生を受けた祖母は、四世代七人から成る大家族の中で幸せに過ごしている。著者の視点から綴られるその日常は、単なる家族の様子ではなく、時に笑いを誘い、時に心を打たれる場面で満ちている。たとえば、冗談を言い合う場面や、美容室に行く祖母の姿、さらには自立して日常生活を送る姿などは、まさに愛すべき九九歳の姿そのものだ。
忘れっぽさの向こうにある思いやり
多くの人が考える「認知症」という言葉に結びつきがちな祖母の姿。記憶が曖昧になり、同じことを繰り返すこともしばしばだが、それでも彼女は周囲に対して深い思いを巡らせ、毎日を過ごしている。著者はこの現象を画一的に捉えるのではなく、むしろ祖母の生き方や言葉から、本質を理解することの大切さを訴えかける。
賢さとしなやかさ
祖母は、一方では頑固な部分も見え隠れしながら、他方では周囲の人々に対する思いやりや関心を持ち続けている。彼女の発言や行動の裏には、長い人生を歩んできたからこそ得られた経験が響いている。このようにして毎日を送る祖母の姿は、著者自身が理想とする生き方でもある。読者は、彼女の言葉や行動を通して、年齢を重ねるということが単に衰えだけではないことを理解できるだろう。
読者への想い
矢嶋晶は、看護師という仕事柄、高齢者と接することが多い。彼女は、年齢を重ねるに連れて現れる肉体的差や精神的差を日々感じており、特に注意が払われるのが高齢者の生活の質である。祖母のように長寿でありながらも意欲を持ち、自立して生活する姿を見て、「奇跡」と感じたのだと言う。何気ない日常の中でこそ、周囲に目を向け、愛情や感謝の気持ちを持って生活することが大切であるとこの本を通じて伝えたい。
本書の魅力
この本を手に取ってもらうことで、読者自身の周りにも、もしかしたら同じような「奇跡」が隠れているのではないかと気づくことができるかもしれない。毎日がその瞬間のいかに特殊であるかを思い起こさせ、日常生活がより色鮮やかになる助けになるだろう。
著者紹介
著者の矢嶋晶は1980年に東京都で生まれ、茨城県で育った。結婚を機に長野県に移住し、現在は七人の大家族の一員として主婦業を行いながら、手術室で看護師としても働いている。また、イラストを担当するのは彼女の妹、かわだめぐみ。彼女は管理栄養士としても働きつつ、日本画の道を追求している。
書籍情報
- - 書籍名: 奇跡の九九歳
- - 著者: 矢嶋 晶
- - 出版社: パレード
- - 発売日: 2025年9月30日
- - 定価: 770円
この『奇跡の九九歳』を通じて、私たちの身近な存在である人々との絆を大切にし、その在り方を見つめ直すきっかけとなることを願っている。