商人たちの歴史的貢献を紐解く新刊
2025年11月4日に、歴史書『北方防衛と開拓の魁』が出版されます。本書は、前作『江戸幕府の北方防衛』から続く姉妹作として、商人たちの活躍に焦点を当てています。これまで歴史教育で語られてきた蝦夷(北海道)の視点は、松前藩や商人による「搾取」といったネガティブな側面が強調されていましたが、本書ではその見方を根底から覆す内容を紹介しています。
著者の中村恵子氏によると、多くの日本人が「北海道はアイヌの土地」と信じ込んでいるにもかかわらず、実際の歴史は異なるといいます。豊臣秀吉や徳川家康といった歴代の政権は、商人たちに対してアイヌとの公正な交易を促進し、共同体を尊重する方針を打ち出していました。このように、商人たちは単なる交易者ではなく、地域の発展を支え、さらには防衛にも貢献したと言います。
江戸時代、北海道は米が取れない地域だったため、商人たちは海産物や材木と本土の物品を「物々交換」することで経済を成り立たせました。特に、商いは樺太や千島まで広がり、地域経済を大きく牽引していました。江戸・大坂の建築には材木が、また昆布は日本人の味覚を形成する重要な役割を果たしていたのです。
「船底一枚下は地獄」ともいわれる動力のない帆船での交易は、厳しいものでしたが、諸方で様々な生活様式の変革を促しました。商人たちが得た利益で漁場や道路の整備を行い、さらには防衛体制を整えることも重要な役割の一環でした。
また、江戸幕府はアイヌを「撫育・介抱」の対象として扱い、彼らの文化に対する理解を持つことが強調されていました。近年の研究で、アイヌを白人による侵略の対象として語ることが誤解であることも指摘されています。
本書では、旧石器時代や縄文時代の遺跡からの考古学的アプローチも取り入れ、日本本土との交流の歴史を詳細に解説しています。また、充実したビジュアル資料として、カラー口絵や図版が80点以上盛り込まれており、多様な視点から北海道の歴史を深掘りできる内容に仕上がっています。
著者の中村恵子氏は、北海道出身で法学を専門としており、循環型社会の実現に向けて様々な活動を行っています。彼女は、アイヌ文化だけでなく、北海道開拓の歴史全体を理解した上でこそ本当の歴史を知るべきだと考えています。
本書は、北海道をもっと深く理解したい読者にとって、また新たな視点を提供する貴重な一冊となるでしょう。歴史の教科書には載っていない、商人たちの奮闘や地域貢献の物語に触れることで、北海道についての見方が劇的に変わるかもしれません。ぜひ手に取って、その魅力を感じてみてください。