松本清張の女性像を読み解く新刊
昭和を代表する作家、松本清張の作品における「女」というテーマが新たな切り口で注目を集めています。エッセイストの酒井順子さんが、6月26日に発売される新著『松本清張の女たち』で、「清張に描かれる女性たち」に迫ります。本書では、清張の女性主人公を通じて、昭和の女性たちの生き様や清張の先見性を掘り下げます。
清張と太宰の意外な共通点
松本清張は、実は文豪・太宰治と同い年の明治42年(1909年)に生まれまし た。太宰が38歳でこの世を去った後、清張は40代に入ってから本格的な作家生活をスタートさせ、以後40年間にわたり猛烈な執筆活動を続けました。『ゼロの焦点』や『砂の器』などの名作を生み出し、政治や歴史、思想に関わるテーマにも挑戦し続けました。
清張の作品群は、ただの小説だけでなく、ノンフィクションも含めて非常に多岐にわたります。書き続ける姿勢には驚きのエピソードもあり、執筆活動が続けられなくなってからも口述筆記で作品を生み出したという逸話が残っています。
「女性」を通して見た松本清張
酒井さんは、清張作品特有の女性像に注目をしています。清張は女性誌で発表した小説において、読者を意識しながら描写を工夫していました。彼が描いた女性たち、「お嬢さん探偵」や「黒と白のオールドミス」、「不倫の機会均等」といったキャラクターたちは、昭和の女性の心情や欲望を映し出しています。これらのキャラクターは、単なる登場人物であるだけでなく、世の中の女性たちの変化をも反映しています。
書中では、「お嬢さん探偵」ものが、どのように「転落お嬢もの」や「悪女もの」へと発展していったのか、その過程も明らかにしています。松本清張が女性を男性と同等に欲望や悪意を持つ一人の人間として描いたことが、現在も読者を魅了する要因であることが読み取れます。
カバーも魅力的!
本書のカバーには、松本清張が大ファンであった女優・新珠三千代とのツーショットが使用されています。新珠は宝塚から映画の世界に進出し、数々の清張原作映画にも出演していました。清張は彼女に深いインスピレーションを受けていたと明言しており、この写真は新潮社のネガ庫から発見されたものです。
記念すべき年に新刊の登場
2023年は、昭和100年、戦後80年、清張が女性誌デビューを果たしてから70年にあたる特別な年です。このタイミングで発表される『松本清張の女たち』は、清張作品へ新たに光を当てる重要な著作と言えるでしょう。
著者の酒井順子は、「清張の女たちは、市井の女性たちの代弁者として、様々なダークな側面を描き出した。この作品を通じて、多くの女性たちが心の奥に持つものを解放してほしい」と語っています。彼女の新刊は、今の若い世代にも昭和の時代を体験させる新たな入口となることでしょう。
清張作品が持つ魅力や深みを再発見できるこの本、ぜひ手に取ってみることをお勧めします。彼女の言葉に促されて、昭和レトロブームの渦中にいる若者たちにも、清張の黒い女の物語を通じて深く多面な昭和の世界を味わってもらいたいものです。