新たに蘇る火坂雅志の真実
新潟日報で連載されたエッセイ「愛と義のひと 追想 夫・火坂雅志」が待望の書籍として発売される。その内容には、火坂氏の未収録作品もあり、彼の魅力や深い思いが凝縮されている。
火坂雅志は、数々の時代小説を世に送り出し、名実ともに時代小説界の巨星として知られた作家である。2015年に急逝し、没後10年を迎える今、彼の妻である中川洋子氏が火坂氏との38年間を振り返り、その日々をエッセイとしてまとめている。
本書は二部構成からなり、第一部では中川氏の視点から火坂氏の日常や情熱が語られる。「酒椿忌─村井弦斎との不思議な縁」や「わが家の猛犬─哀しみを共有し支え合える存在として」といったエッセイは、時代小説の巨匠としての彼の人間らしい一面を映し出している。
次の目を引くのは、「雪のなかで春を待つ─新潟への思い」。新潟からの熱い思いは、火坂氏の作品の背景としても大切な要素であり、著者が色濃く表現している。また、彼の好きな食事についてのエッセイもあり、そこには彼の好みや、家族との温かな日常が描かれている。
さらに、「羊羹合戦─「好き」が小説の題材になるとき」というエッセイは、作家としての創作過程や、彼のユーモアが垣間見える部分もあり、読者を引き込む魅力に溢れている。
第二部では「人生の愉しみ」と題された未収録作品集があり、火坂氏自身の声が直接耳に届くようだ。彼のデビュー作に遡りながら、湘南人の原型とも言える村井弦斎に関するエッセイや、「羊羹遍歴」というタイトルがつけられた作品まで、火坂氏の多才さがわかる内容となっている。
また、「墓盗人─骨董屋征次郎真贋帖」という短編も特別に収録されており、時代小説ファンにとって見逃せない一作である。
このように本書は、愛する人との思い出と、彼の作品を通じた情熱が交錯する特別な一冊である。時代小説の旗手として活動してきた火坂氏の業績をしっかりと受け止めつつ、彼の人間性や家庭での姿を知ることができる。今後の読書リストにぜひ加えて欲しい一冊だ。
書籍情報
著者: 中川洋子、火坂雅志
発売日: 2025年3月5日
定価: 1,870円(税込)
ISBN: 978-4-413-23396-5
火坂雅志の魅力に迫るエッセイ集。この機会に彼の人生や作品にふれてみてはいかがだろう。彼の一言一言には、名作の陰に隠れた深い愛情と強い意志が通っています。